【書評】二人の女性登山家がマッターホルン北壁登攀に挑む『銀嶺の人』

新田次郎『銀嶺の人』

新田次郎の『銀嶺の人』を読みました。

孤高の人』『栄光の岩壁』につづく、長編山岳小説の傑作です。

私が好きな小説の一つで、久しぶりに再読しました。

世界で初めて女性としてマッターホルン北壁登攀を成し遂げた二人の女性登山家のお話です。

この小説は二人の実在人物がモデルになっています。一人は女性登山家として初めてヨーロッパアルプス三大北壁登攀を成し遂げた今井通子(いまい みちこ)さん。もう一人は、彼女と共にマッターホルンを女性だけのパーティーで初登頂した若山美子(わかばやし みさこ)さんです。

二人とも世界的に有名な女性登攀家(クライマー)です。今井通子さんは東京女子医科大学の医師として、若山美子さんは鎌倉彫の彫刻家としても活躍しました。

物語は、冬の八ヶ岳へ単独行を試みて遭難しかけた駒井淑子(こまい としこ)が、若林美佐子(わかばやし みさこ)と出会う場面から始まります。

二人の性格は正反対でした。女医を目指す駒井淑子は勝気な”泣かない子”でした。一方、鎌倉彫の彫刻家として注目されることになる若林美佐子は無口ですぐに”涙ぐむ子”でした。

性格は正反対の二人ですが、冬山での体験がきっかけとなり、ともに岩壁登攀の世界にのめり込んでいきます。そして、ついに女性だけのパーティーで、マッターホルン北壁登攀への挑戦を試みます。

世界中の女性ロッククライマーの先駆けとなった二人の日本人女性が、山へ賭けた青春を描きます。